肝臓癌のこと
2017.05.12
皆様、夏のような日がきたり急に寒くなったりを繰り返している今日この頃ですが、体調をくずされていませんか。忙しさにかまけておりましたが、久々にブログを更新したいと思います。
今年も内科学会講演会で勉強してきました。今回は東京大学内科学教授の小池和彦先生が会長でした。小池先生は内科学、特に肝臓の分野ではとても著名な先生です。本日は、会長講演「国民病である肝炎・肝癌の病態解明と克服への歩み」の一部を紹介したいと思います。
みなさん、肝臓癌という病気をご存知でしょうか。一般に、肝臓癌は突然できるものではなく、多くはB型肝炎やC型肝炎ウイルスに感染した後に、慢性肝炎、肝硬変と進み、長い年月をかけて癌ができるとされています。肝硬変の患者さんでは年間に7〜9%の頻度で肝臓癌を発症するため、肝硬変に進まないように注意し、肝硬変の患者さんでは癌を早期に発見できるようエコーやCTなどの画像検査を定期的に行う必要があります。



B型肝炎ウイルスには発癌性があり、肝硬変に進行していなくても癌ができることが知られています。一方、C型肝炎の場合は慢性炎症が癌の原因であり肝臓の数値(トランスアミナーゼ)を低く保っておけば発癌の心配はないと考えられていました。しかし、小池先生のグループは、C型肝炎ウイルスにも発癌性があることを解き明かしました。この研究結果は、C型肝炎の場合もB型肝炎と同様に肝硬変になる前から肝臓癌の検査を行う必要があることを意味します。常識が変わったのです。



小池先生は実際に診察されていた患者さんをきっかけに、C型肝炎ウイルス自体に発癌性があることに気付いたそうです。その患者さんは肝硬変になっていないばかりかトランスアミナーゼも基準範囲内でしたが、肝臓癌を発症してしまいました。
今回の講演のなかで最も印象に残ったのは、



目の前で起こっていることを当たり前だと流してしまわない。日々の診療の中に真実は隠れている。
臨床医であるからこそできる研究がある。


という教えです。
「どんな鳥も想像力より高く飛べる鳥はいない。人間に与えられた能力のなかで、一番素晴らしいものは想像力である。」寺山修司の『ロンググッドバイ』を引用されていました。私も若かった頃を思い出しました。


近年、B型肝炎とC型肝炎に対する抗ウイルス薬の開発が進んでいます。特にC型肝炎は治る病気になってきました。これらの治療に興味をお持ちの方はご相談ください。また、自分がB型肝炎やC型肝炎に感染しているかどうかは血液検査で調べることができます。これまで検査されたことがない40才以上の方は、検査費用を市町村が負担する制度があります(健康増進法)。検査をご希望の方もご相談ください。
最近はウイルス性肝炎以外に、アルコールや一部の脂肪肝を原因とした肝臓癌も増えてきています。これらも定期的な検査による早期発見が大切です。以上に注意し、肝臓癌を予防しましょう。
2017.05.12 12:30 | 固定リンク | 病気のこと
幸せになる方法
2017.03.24
今回もサピエンス全史からの話題です。文明は人類を幸福にしたのか?というのが本書の一つのテーマです。結論は、中世と比べても人は幸せになっていない、というものです。
内閣府による「幸福度に関する研究会」が、日本人の幸福度について調べています。1978年からの日本人の幸福度調査の結果、この40年間で生活満足度や幸福度は上がっておらず、どちらかというと低下傾向にあるようです。皆さん、今と40年前の生活を比べてみてください。びっくりしませんか?
なぜ、人の幸福度はあがっていないのでしょうか。その理由も本書に記載されています。人は、脳内でセロトニン、ドーパミンやオキシトシンなどのホルモンが分泌される時に幸せを感じるそうです。しかし、これらのホルモンは時代とともに増えていません。すなわち、中世の人も現代人も脳内の幸せホルモンの量に差がないので、幸福度も変わらないというのです。
人は、今よりも幸せになることは出来ないのでしょうか。これまでわかっている、幸福度に影響する要素を調べてみました。下の表は内閣府の調査結果です。



日本では女性の方が男性よりも幸福度が高いようです。なんとなく理解できます(笑)。お金持ちが幸せなのも理解できますね。ただ、こんなデータもあります。約10年前のアメリカのデータですが、世帯あたりの年収が700万円までは収入が増えるにしたがい幸福度も上がっていくようですが、それ以上の年収があっても幸福度は上がらないそうです(出典は忘れました)。お金で買える幸せには限りがあるということですね。

一方、これらの要素が幸福度に与える影響には差があるようです。富や健康よりも、家族やコミュニティの方が幸福度に与えるインパクトは大きいそうです(サピエンス全史より)。
しかし、環境を変えるには難しいこともあります。そこで、幸せホルモンを増やす方法がないか調べてみました。以下は自力でセロトニンを増やす方法についてのまとめです(Young, J Psychiatry Neurosci, 2007)。
まず、考え方をポジティブにすることでセロトニンの量は増えるそうです。半分のコップの水をみた時に、半分あるのか、半分しかないのか、という話を思い出しました。
二つ目は、明るい日差しを浴びることだそうです。時間は30分から90分くらい。季節性うつ病や月経前症候群の治療にも応用されているようです。
有酸素運動もセロトニンをあげることが実証されています。ジョギングやウォーキングが良いのですね。
最後に食事についてです。セロトニンはトリプトファンというアミノ酸をもとに合成されます。しかし、どれだけ多くのたんぱく質を摂取しても脳内のトリプトファンは増えないそうです。これは、たんぱく質には他にも多くのアミノ酸が含まれるため、トリプトファンが優先的に脳内に取り込まれることがないのが理由だそうです。ただ、ラクトアルブミンという乳清に含まれるたんぱく質にはトリプトファンが比較的多く含まれているそうです。トリプトファンが枯渇しないように、牛乳やヨーグルトなどの乳製品をとることも大切なようです。
これなら、実践できそうな気がしてきましたね。
以上をざっくりまとめると、人の幸せは環境に影響を受けるものの、同時に自分で幸せを感じる力を育まないと幸福にはなれない、ということでしょうか。参考になりましたか?皆様のご多幸をお祈り申し上げます。
2017.03.24 17:32 | 固定リンク | 随想
食について
2017.02.08
寒い日が続いていますが、皆さん、お変わりありませんか。
今日は食について綴ってみたいと思います。この仕事をしていると、食について考えさせられます。糖尿病や高血圧症では、カロリーや塩分を制限する必要があります。絶食が治療法の、胃腸の病気もあります。
先日、大分大学内分泌代謝内科、後藤先生の講演を聴く機会がありました。印象深かったので、一部、紹介します。糖尿病を患っている方の中には甘いものが好きな方も多いと思います。現代人は、必要だから食事を摂るのではなく、食べたいという欲求を我慢できないから食事を摂ることがあるそうです。下の写真をみてください。美味しそうですね。





では、こちらはどうでしょう。

床に落ちたケーキです。食べたいという欲求が減りませんでしたか。
人は理性によって、食欲を抑えることができるそうです。食べたいものを我慢して体重を減らし、減った体重を目にすることで喜びがうまれ、食欲を抑えることができるそうです。1日2回体重をはかり、メモすることで体重が減るとも言われています。減量が必要な方は、ぜひ試してみてください。



今、サピエンス全史という本を読んでいます。
人類史について、斬新な視点から書かれており世界中で絶賛されているので、お読みになった方もいるかと思います。その中で、何故、現代人は甘いものを貪り食うのか、という考察があります。それは本能で、遺伝子に刻み込まれているからなのだそうです。

戦後、飽食の時代になり、糖尿病をお持ちの患者さんは増え続けています。残念ながら、私たちの体は過剰なカロリー摂取に耐えられるようには進化していません。くれぐれも食べ過ぎには注意しようと、自戒している今日この頃です。



2017.02.08 13:25 | 固定リンク | 随想

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