おおいた糖尿病相談医研修会
2016.05.14
おおいた糖尿病相談医研修会に参加してきました。糖尿病専門医と地域のかかりつけ医の連携を推進する目的で、大分県がはじめた会です。土曜日の診療が終わってから、午後7時まで勉強してきました。糖尿病の話を5時間も続けて聴くのは初めてでしたので、さすがに疲れました。でも糖尿病を専門にしている先生方の経験を共有でき、とても勉強になりました!今後の診療に役立てていきたいと思います。
インスリンとグルカゴンのバランスからみた糖尿病
2016.04.27
最近、糖尿病研究に大きな進展がありました。学会や講演会などで取り上げられることも多く 、新しい薬も出てきていますので紹介したいと思います。(自分の備忘録も兼ねていますので、わかりにくい部分もあるかと思いますがご容赦ください。)
糖尿病は血糖値が異常に高くなる病気です。軽い場合は症状は出ませんが、進むと喉が渇いたり、尿が近くなったり、意識が悪くなったりすることがあります。長い間、治療せずにいると、心筋梗塞、脳梗塞や腎不全の原因になるので治療が必要です。
図1
私が学生の頃は、糖尿病はインスリンの作用不足によってなる病気だと教わりました。インスリンは血糖値を下げるホルモンで膵臓のβ(ベータ)細胞から出ます。糖尿病は、インスリンの量が少ないために血糖値が上がるタイプと、インスリンの量は十分あるにもかかわらず血糖値が上がるタイプがあります(図1)。インスリンが多いにもかかわらず血糖値が高い状態はインスリン抵抗性と呼ばれています。インスリン抵抗性には色々な原因がありますが、最近、グルカゴンが注目を集めています。
図2
グルカゴンは血糖値を上げるホルモンで、膵臓のα(アルファ)細胞から分泌されます。学生時代の試験の山の一つなのですが、グルカゴンはグルっとまわるからα細胞と覚えた記憶があります(笑)。
図3 Müllerら, N Eng J Med, 1973より
図3は、健常者と糖尿病患者で食後の血糖、インスリンとグルカゴン値の推移をみたデータです。黒が健康な人、赤が糖尿病の人のパターンです。健常者では食後にインスリンが分泌されグルカゴンは抑制されるのに対し、糖尿病ではインスリンが十分に分泌されず、逆にグルカゴンが上昇しています。糖尿病ではインスリンだけでなくグルカゴンの分泌異常があることがわかります。
図4
内科学会で山口大学の谷澤先生が講演されていたのですが、糖尿病が進むにつれてインスリンを出すβ細胞は減少しグルカゴンをつくるα細胞に置き換わっていくそうです(図4)。
また、グルカゴンが働かないネズミではインスリンがなくなっても糖尿病にならないというのです(Lee ら, Diabetes, 2011)。
図5
以上をまとめると、糖尿病はインスリンとグルカゴンのバランスがくずれた結果、血糖値が上がる病気だということが理解できます。

図6
最近、糖尿病治療でよく使用される薬にDPP4阻害薬があります。DPP4阻害薬は、消化管ホルモンであるインクレチン(GIPとGLP1)の働きを強くする薬です。インクレチンはインスリンの分泌を促すのですが、特にGLP1はインスリン分泌を促すだけでなくグルカゴン分泌を抑える働きがあります。GLP1も注射薬として日常的に使用されています。特に日本人の場合、欧米人に比べDPP4阻害薬やGLP1が効きやすいとのことでした。
今日紹介した内容は糖尿病の一側面で、他にも色々と興味深い研究が進んでいます。今後も目が離せませんね。
糖尿病は血糖値が異常に高くなる病気です。軽い場合は症状は出ませんが、進むと喉が渇いたり、尿が近くなったり、意識が悪くなったりすることがあります。長い間、治療せずにいると、心筋梗塞、脳梗塞や腎不全の原因になるので治療が必要です。

私が学生の頃は、糖尿病はインスリンの作用不足によってなる病気だと教わりました。インスリンは血糖値を下げるホルモンで膵臓のβ(ベータ)細胞から出ます。糖尿病は、インスリンの量が少ないために血糖値が上がるタイプと、インスリンの量は十分あるにもかかわらず血糖値が上がるタイプがあります(図1)。インスリンが多いにもかかわらず血糖値が高い状態はインスリン抵抗性と呼ばれています。インスリン抵抗性には色々な原因がありますが、最近、グルカゴンが注目を集めています。

グルカゴンは血糖値を上げるホルモンで、膵臓のα(アルファ)細胞から分泌されます。学生時代の試験の山の一つなのですが、グルカゴンはグルっとまわるからα細胞と覚えた記憶があります(笑)。

図3は、健常者と糖尿病患者で食後の血糖、インスリンとグルカゴン値の推移をみたデータです。黒が健康な人、赤が糖尿病の人のパターンです。健常者では食後にインスリンが分泌されグルカゴンは抑制されるのに対し、糖尿病ではインスリンが十分に分泌されず、逆にグルカゴンが上昇しています。糖尿病ではインスリンだけでなくグルカゴンの分泌異常があることがわかります。

内科学会で山口大学の谷澤先生が講演されていたのですが、糖尿病が進むにつれてインスリンを出すβ細胞は減少しグルカゴンをつくるα細胞に置き換わっていくそうです(図4)。
また、グルカゴンが働かないネズミではインスリンがなくなっても糖尿病にならないというのです(Lee ら, Diabetes, 2011)。

以上をまとめると、糖尿病はインスリンとグルカゴンのバランスがくずれた結果、血糖値が上がる病気だということが理解できます。

図6
最近、糖尿病治療でよく使用される薬にDPP4阻害薬があります。DPP4阻害薬は、消化管ホルモンであるインクレチン(GIPとGLP1)の働きを強くする薬です。インクレチンはインスリンの分泌を促すのですが、特にGLP1はインスリン分泌を促すだけでなくグルカゴン分泌を抑える働きがあります。GLP1も注射薬として日常的に使用されています。特に日本人の場合、欧米人に比べDPP4阻害薬やGLP1が効きやすいとのことでした。
今日紹介した内容は糖尿病の一側面で、他にも色々と興味深い研究が進んでいます。今後も目が離せませんね。
腸内細菌
2016.04.20
日本内科学会に参加してきました。色々と興味深い話を聞くことができましたので、いくつか紹介したいと思います。
今回のテーマの一つに腸内細菌がありました。最近、テレビでも取り上げられているので、ご存知の方も多いかもしれません。腸内細菌とはヒトや動物の腸にいる細菌のことです。成人の腸には数百から数千種類の細菌が、数十兆から数千兆個いると言われています。ヒトは母親のおなかの中にいるときは無菌状態ですが、出産や授乳の際に母から細菌を受け継ぎ、1歳の頃には大人とほぼ同じ組成になっていることがわかっています。近年、腸内細菌がヒトの健康や病気に色々と関わっていることが、わかってきました。例えば腸内細菌はヒトが消化できない食物繊維を分解したり、生成できないビタミン類を合成したりしています。腸内細菌の組成や数のバランスが崩れる(dysbiosis)と、色々な病気の原因になります。肥満、糖尿病、炎症性腸疾患、動脈硬化症や多発性硬化症などがその例です。
興味深かったのは、食事の内容によって腸内細菌のバランスが変わるということです。東京オリンピック以降、日本では炎症性腸疾患が増えています。脂肪の多い食事が腸内細菌のバランスを乱し、その原因となっているのではないかという話がありました。腸内細菌のことを勉強しはじめたら、普段の食事が腸内細菌の餌に思えてきましたね(笑)。
そもそもヨーグルトをよく食べるブルガリア人は長生きだということから、健康食品としてヨーグルトが注目されてきました。それが発展し、炎症性腸疾患をヨーグルトなどで治療しようという研究がありますが、まだまだ課題が多いようです。腸内細菌、これからも注目していきたいと思います。
今回のテーマの一つに腸内細菌がありました。最近、テレビでも取り上げられているので、ご存知の方も多いかもしれません。腸内細菌とはヒトや動物の腸にいる細菌のことです。成人の腸には数百から数千種類の細菌が、数十兆から数千兆個いると言われています。ヒトは母親のおなかの中にいるときは無菌状態ですが、出産や授乳の際に母から細菌を受け継ぎ、1歳の頃には大人とほぼ同じ組成になっていることがわかっています。近年、腸内細菌がヒトの健康や病気に色々と関わっていることが、わかってきました。例えば腸内細菌はヒトが消化できない食物繊維を分解したり、生成できないビタミン類を合成したりしています。腸内細菌の組成や数のバランスが崩れる(dysbiosis)と、色々な病気の原因になります。肥満、糖尿病、炎症性腸疾患、動脈硬化症や多発性硬化症などがその例です。
興味深かったのは、食事の内容によって腸内細菌のバランスが変わるということです。東京オリンピック以降、日本では炎症性腸疾患が増えています。脂肪の多い食事が腸内細菌のバランスを乱し、その原因となっているのではないかという話がありました。腸内細菌のことを勉強しはじめたら、普段の食事が腸内細菌の餌に思えてきましたね(笑)。
そもそもヨーグルトをよく食べるブルガリア人は長生きだということから、健康食品としてヨーグルトが注目されてきました。それが発展し、炎症性腸疾患をヨーグルトなどで治療しようという研究がありますが、まだまだ課題が多いようです。腸内細菌、これからも注目していきたいと思います。