最近、糖尿病研究に大きな進展がありました。学会や講演会などで取り上げられることも多く 、新しい薬も出てきていますので紹介したいと思います。(自分の備忘録も兼ねていますので、わかりにくい部分もあるかと思いますがご容赦ください。)
糖尿病は血糖値が異常に高くなる病気です。軽い場合は症状は出ませんが、進むと喉が渇いたり、尿が近くなったり、意識が悪くなったりすることがあります。長い間、治療せずにいると、心筋梗塞、脳梗塞や腎不全の原因になるので治療が必要です。
図1
私が学生の頃は、糖尿病はインスリンの作用不足によってなる病気だと教わりました。インスリンは血糖値を下げるホルモンで膵臓のβ(ベータ)細胞から出ます。糖尿病は、インスリンの量が少ないために血糖値が上がるタイプと、インスリンの量は十分あるにもかかわらず血糖値が上がるタイプがあります(図1)。インスリンが多いにもかかわらず血糖値が高い状態はインスリン抵抗性と呼ばれています。インスリン抵抗性には色々な原因がありますが、最近、グルカゴンが注目を集めています。
図2
グルカゴンは血糖値を上げるホルモンで、膵臓のα(アルファ)細胞から分泌されます。学生時代の試験の山の一つなのですが、グルカゴンはグルっとまわるからα細胞と覚えた記憶があります(笑)。
図3
Müllerら, N Eng J Med, 1973より
図3は、健常者と糖尿病患者で食後の血糖、インスリンとグルカゴン値の推移をみたデータです。黒が健康な人、赤が糖尿病の人のパターンです。健常者では食後にインスリンが分泌されグルカゴンは抑制されるのに対し、糖尿病ではインスリンが十分に分泌されず、逆にグルカゴンが上昇しています。糖尿病ではインスリンだけでなくグルカゴンの分泌異常があることがわかります。
図4
内科学会で山口大学の谷澤先生が講演されていたのですが、糖尿病が進むにつれてインスリンを出すβ細胞は減少しグルカゴンをつくるα細胞に置き換わっていくそうです(図4)。
また、グルカゴンが働かないネズミではインスリンがなくなっても糖尿病にならないというのです(Lee ら, Diabetes, 2011)。
図5
以上をまとめると、糖尿病はインスリンとグルカゴンのバランスがくずれた結果、血糖値が上がる病気だということが理解できます。
図6
最近、糖尿病治療でよく使用される薬にDPP4阻害薬があります。DPP4阻害薬は、消化管ホルモンであるインクレチン(GIPとGLP1)の働きを強くする薬です。インクレチンはインスリンの分泌を促すのですが、特にGLP1はインスリン分泌を促すだけでなくグルカゴン分泌を抑える働きがあります。GLP1も注射薬として日常的に使用されています。特に日本人の場合、欧米人に比べDPP4阻害薬やGLP1が効きやすいとのことでした。
今日紹介した内容は糖尿病の一側面で、他にも色々と興味深い研究が進んでいます。今後も目が離せませんね。