10月に横浜で開催された日本血液学会に参加してきました。薬の開発や研究は日進月歩です。新しい知識を本で勉強するのと、使用経験のある先生から生の声で聞くのとでは、同じ知識でも大きく違います。昔からの仲間とも会うことができ、とても有意義な時を過ごすことができました。
学会で興味深かったのは、抗PD-1抗体についての講演です。ヒトの体内では、毎日、約3,000個のがん細胞が誕生しているそうです。日々、T細胞などによる免疫が、がん細胞を排除しているため健康が保たれています。しかし、がん細胞が免疫から逃れる方法を獲得すると、がん細胞が増えることになります。
ヒトのT細胞にはPD-1という車のブレーキのような物質があります。がん細胞にPD-L1という物質があると、PD-1を介して免疫にブレーキがかかり、がんが排除されなくなります。
これまで、免疫を利用したがん治療の多くが失敗に終わりました。その理由は免疫を活性化するアクセルに注目が集まり、ブレーキに着目した治療法がなかったからです。抗PD-1抗体はPD-1とPD-L1の結合をじゃまして免疫のブレーキをはずし、免疫ががん細胞を攻撃するようにします。
抗PD-1抗体は、悪性黒色腫や肺がんに使用されており、その効果は他の種類の悪性腫瘍でも確認されつつあるようです。抗PD-1抗体のように免疫をコントロールする部分に作用する薬は免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれ、現在、たいへん注目されています。