皆様、夏のような日がきたり急に寒くなったりを繰り返している今日この頃ですが、体調をくずされていませんか。忙しさにかまけておりましたが、久々にブログを更新したいと思います。
今年も内科学会講演会で勉強してきました。今回は東京大学内科学教授の小池和彦先生が会長でした。小池先生は内科学、特に肝臓の分野ではとても著名な先生です。本日は、会長講演「国民病である肝炎・肝癌の病態解明と克服への歩み」の一部を紹介したいと思います。
みなさん、肝臓癌という病気をご存知でしょうか。一般に、肝臓癌は突然できるものではなく、多くはB型肝炎やC型肝炎ウイルスに感染した後に、慢性肝炎、肝硬変と進み、長い年月をかけて癌ができるとされています。肝硬変の患者さんでは年間に7〜9%の頻度で肝臓癌を発症するため、肝硬変に進まないように注意し、肝硬変の患者さんでは癌を早期に発見できるようエコーやCTなどの画像検査を定期的に行う必要があります。
B型肝炎ウイルスには発癌性があり、肝硬変に進行していなくても癌ができることが知られています。一方、C型肝炎の場合は慢性炎症が癌の原因であり肝臓の数値(トランスアミナーゼ)を低く保っておけば発癌の心配はないと考えられていました。しかし、小池先生のグループは、C型肝炎ウイルスにも発癌性があることを解き明かしました。この研究結果は、C型肝炎の場合もB型肝炎と同様に肝硬変になる前から肝臓癌の検査を行う必要があることを意味します。常識が変わったのです。
小池先生は実際に診察されていた患者さんをきっかけに、C型肝炎ウイルス自体に発癌性があることに気付いたそうです。その患者さんは肝硬変になっていないばかりかトランスアミナーゼも基準範囲内でしたが、肝臓癌を発症してしまいました。
今回の講演のなかで最も印象に残ったのは、
目の前で起こっていることを当たり前だと流してしまわない。日々の診療の中に真実は隠れている。臨床医であるからこそできる研究がある。
という教えです。
「どんな鳥も想像力より高く飛べる鳥はいない。人間に与えられた能力のなかで、一番素晴らしいものは想像力である。」寺山修司の『ロンググッドバイ』を引用されていました。私も若かった頃を思い出しました。
近年、B型肝炎とC型肝炎に対する抗ウイルス薬の開発が進んでいます。特にC型肝炎は治る病気になってきました。これらの治療に興味をお持ちの方はご相談ください。また、自分がB型肝炎やC型肝炎に感染しているかどうかは血液検査で調べることができます。これまで検査されたことがない40才以上の方は、検査費用を市町村が負担する制度があります(健康増進法)。検査をご希望の方もご相談ください。
最近はウイルス性肝炎以外に、アルコールや一部の脂肪肝を原因とした肝臓癌も増えてきています。これらも定期的な検査による早期発見が大切です。以上に注意し、肝臓癌を予防しましょう。